海外安全対策情報
平成29年10月11日
海外安全対策情報(平成29年7月~9月)
1 社会・治安情勢
(1) テロ等の傾向
ア パキスタンのテロ事件発生件数はパキスタン軍によるテロリスト掃討作戦により、2009年をピークに減少傾向にあるものの、今期も多数のミリタント等が殺害されたほか、複数の潜伏拠点が破壊された。
テロの件数等は前期(4月~6月期)に比して20件増加(84件→104件)したものの、死者は46名減少(234名→188名)し、負傷者は68名減少(400名→332名)した。(パキスタン平和研究所調べ。)。また、7月中旬から8月下旬まで、FATAハイバル管区ラジガル渓谷において、同地域に潜伏するテロリストの掃討を目的とするハイバル4作戦が実施され、多数のテロリストが殺害された。
他方、本年2月から開始されている軍及び治安機関等による対テロ作戦(ラード・ウル・ファサード(Radd-ul-Fasaad))は引き続き国内各地で実施されている。
このほか、昨年9月中旬からカシミールのパキスタン・インド管理ライン(LoC)で行われている両軍による局地的な衝突が断続的に発生しており、今期も多数の民間人が死傷するなど、今なおカシミールにおける両国の軍事的な緊張は続いている状況である。
イ 今期の当館管轄地域で発生したテロの特徴としては、これまでKP州及び連邦直轄部族地域(FATA)を中心に発生していたテロが、同地域の他にも政治・文化の中心地の一つであるラホールで発生したことにある。
犯行形態の多くは、軍又は治安当局を主な標的とする自爆、IED及び標的殺人といった手法であった。また、治安機関を狙ったテロ以外に、ハザラ人等、シーア派イスラム教徒をターゲットとしたテロや民間人が被害に巻き込まれるなど、ソフトターゲットに対する攻撃も散見された。
ウ 今期も、イスラマバードにおけるテロは確認されなかったものの、他の主要都市であるラホール及びペシャワールなどの都市部で大規模なテロ事件が発生したほか、治安当局によるテロリストの拘束事件及び武器・弾薬等の押収事件が前期に続き多く確認された。こうした状況から、都市部においても未だテロの脅威下にあり、当地の治安情勢は安定した状況とは言えず、テロの蓋然性は然として高いと考えられる。
(2) デモの傾向
当地では、主に金曜礼拝後、各種団体による政府機関に対する労働環境改善要求等の抗議活動が行われる傾向にある。今期においては、大規模なデモは確認されていないが、小規模なデモは首都イスラマバードを含め各地で行われた。
- 7月23日、パナマ文書疑惑に関連してシャリフ首相の辞任を求めるデモや集会がパンジャブ州各地で行われた。ラホールでは一部のデモ隊が路上でタイヤを燃やす等、過激活動を行った
- 7月30日、野党PTIは、シャリフ首相等のパナマ文書疑惑に関連する最高裁判決を受けて、イスラマバード市内で大規模な集会を実施した。
2 一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
(1) 邦人被害事案
9月4日、邦人が、バンコク発イスラマバード行きの航空機に搭乗していたところ、機内頭上荷物入れに保管中の同人のバッグの中から何者かが現金を窃取した事案が発生した。
(2) 銃器使用犯罪
本期間においても、前期と同様に銃器を使用した犯罪及び押収事案が相次ぎ、特に主要道路から離れた路地等人通りが少ない場所においては、その危険性が高い。主要都市部においても、銃器を使用した強盗事件(ガンポイント)や侵入強盗事件が散発的に発生しており、治安当局が継続的な銃器の取締りに取り組んではいるものの、違法に所持し摘発されるケースが後を絶たず、違法銃器の蔓延が問題となっている。
(3) 招き入れ型侵入犯罪
イスラマバードは富裕層が多く居住しており、各家屋には警備員やドライバー等の使用人を雇っている家主が多いが、これら使用人が犯罪者側と共謀し家屋内に招き入れて犯罪に荷担する事件が時折発生している。
(4) 名誉殺人
当地では、親が認めない相手との交際などで、家族の名誉を汚したとして女性又はその交際相手が殺害される名誉殺人が後を絶たない。パキスタンの保守的なイスラム社会では、毎年数百人の女性が名誉殺人の犠牲になっており、今期も凄惨な殺害事件が発生している。
(5) 性犯罪及び虐待
当地では、強姦を含む性犯罪及び虐待事件が頻繁に報道され、その発生件数は多いと言える。同種事件の被害者は、二次被害のおそれ等から警察に届け出ないことも少なくなく、実態は把握できていない。
(6) その他
本期間においても連日、不法な銃器・薬物・酒類の押収事案が報じられた。
3 2016年10月から2017年9月までのテロ事件発生状況
10月 40件、死者 111名、負傷者 253名
11月 48件、死者 114名、負傷者 172名
12月 35件、死者 18名、負傷者 59名
(2017年)
1月 29件、死者 40名、負傷者 128名
2月 32件、死者 159名、負傷者 426名
3月 28件、死者 40名、負傷者 98名
4月 26件、死者 46名、負傷者 49名
5月 39件、死者 71名、負傷者 107名
6月 19件、死者 117名、負傷者 244名
7月 43件、死者 86名、負傷者 122名
8月 36件、死者 70名、負傷者 136名
9月 25件、死者 32名、負傷者 74名
(出典資料:パキスタン平和研究所)
4 安全を考える上で参考となる事件等(報道ベース)
(1) 7月1日、FATAカイバル管区で道路脇に仕掛けられたIEDが爆発し、4名が死亡、3名が負傷した。
(2) 7月2日、FATAカイバル管区で黒い袋に隠匿されていた爆発物が爆発し、4名が死亡した。
(3) 7月9日、FATAオラクザイ管区で爆発物の捜索に当たっていた爆発物処理隊員が道路脇に設置されたIEDと接触して爆発し、4名が負傷した。
(4) 7月10日、FATAクーラム管区で治安部隊の車列がIEDの爆発に巻き込まれ、2名が死亡し5名が負傷した。
(5) 7月14日、FATAカイバル管区所在の軍のキャンプを自爆テロ犯が襲撃し、同犯人のほか、兵士2名が死亡した。ジャマトゥル・アハラールが犯行声明発出。
(6) 7月17日、ペシャワールで辺境警察隊を標的としたオートバイ利用の自爆テロが発生し、2名が死亡し、7名が負傷した。TTPが犯行声明を発出。
(7) 7月24日、ラホールにおいて土地の不法占有者に対処中の警察隊に対して自爆テロが発生。警察官9名を含む26名が死亡、58名が負傷した。TTPが犯行声明を発出。
(8) 8月7日、ラホール市内所在の駐車場においてトラックが爆発し、46名以上が負傷した。
(9) 8月11日、FATAバジョール管区において、路上に仕掛けられていた爆発物が遠隔装置によって起爆し、走行中のトラックを破壊した。民間人3名が死亡し24名が負傷した。
(10) 8月16日、警察、レンジャー部隊等は、パンジャブ州アトック、デラ・ガジ・カーン、及びラホールで大規模な摘発を行い、TTP活動員等テロ関連被疑者27名を逮捕したほか、大量の武器弾薬を押収した。
(11) 9月24日、KP州デラ・イスマイル・ハーンにおいて、治安部隊と武装勢力との間で銃撃戦となり、3名の自爆ジャケットを身につけた戦闘員が殺害された。
5 誘拐・脅迫事件発生情報
当地では、パキスタン人が誘拐される又は誘拐後に殺害されて発見される事件が断続的に発生しており、誘拐事件発生に関する報道は比較的多い。誘拐・脅迫事件の背景としては、過激派又は武装組織による誘拐事件を利用した政府等への要求又は資金稼ぎを目的として犯行に及ぶケースの他、単に一般犯罪者が、強姦等の性犯罪や身代金目的で行うケースがある。このような誘拐事件は、解決までに多大な労力・時間を要すると共に、誘拐された被害者が殺害される可能性もあることから、事件に遭わないための安全対策が重要である。9月27日には、トルコ人家族がラホールにおいて何者かに誘拐される事件が発生した。
6 日本企業の安全に関わる諸問題
これまでのところ、邦人及び日系企業に対する脅威情報に接していない。しかしながら、本年5月にクエッタにおいて中国人の誘拐・殺害事件が発生していることや、本年7月にも、カラチ市内の幹線道路において中国人技術者を対象とした爆発事件が発生しており、邦人が、外見の似ている中国人と誤認され事件に巻き込まれるというケースも否定出来ないことから、活動地域の最新の治安・安全情報の入手を欠かさず、安全を第一に考えた行動(活動)方針を定め、先ずは事件に遭遇しないための対策を講じるとともに、万が一の事態を想定した具体的な警備・連絡体制を確立することが重要である。
また、当国政府の政策として、外国人の入域を制限している地域が国内各地に存在するので、当国政府の規定に従い、事前に然るべき手続きを行うことが必要である。なお、手続きを行ったにもかかわらず、政府からの入域許可が得られない場合には、当該地域への入域は控える。
(以上)